こちらも僅かに照れて、ユアンは頷く。
そして……次の瞬間。死を覚悟した。
「……それ、口に出さないほうが良いですわ」
ざわッと、風もないのにミリエッタの髪がなびいたのだ。
影になった顔の真中で、三角に尖った眼が一瞬、確かに赤く光った。
「言いませんっ! 絶対口にしません!」
今度こそ……ユアンの体が、真後ろに倒れこむ。
後頭部を地面に強打しそうになる寸前。柔らかな腕が、彼を抱きとめた。
「そう、それならよろしいですわ」
ミリエッタの微笑みは、いつもと同じ柔らかいものだった。
……逆にユアンの顔は、思い切り引きつっていたけれど。
「……うー……」
カナに至っては、つっぷして頭を抱えていた。
彼女の本能が『勝てない相手』と認識したのであろう。
「カナ、なにを脅えていますの? さあ、ちゃんと道具を使って食べる練習をいたしましょう」
「んー!?」
細い首が、ミリエッタの指二本で抑えられ、軽々と引き起こされる。
カナはしばらくいやいやと首を振ろうとしていたが、やがて一言「ぐえ」とうめいて、静かになった。
「子供って、ここを抑えられると、動けなくなるんですよ。ユアン君も覚えておくといいですわ」
「……子供って言うか、人間全般、そうだと思いますよ」
「あら、そうですか?」
カナはすっかりおとなしくなり、されるがままにスプーンやフォークを握っていた。
ユアンもおとなしく、ミリエッタのする事を見ているだけの存在になった。
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