第1回:初代パワードールの魅力を引き継ぎつつリメイク

ストラテジー(戦略)ゲーム界で工画堂スタジオの名声を大きく担ってきた,「パワードール」シリーズ。その記念すべき第1作が,およそ10年ぶりにリメイクされる。しかも今回は,単純に市場で品薄になっていた「パワードール for Win 3.1/95」に代わるパッケージとして,Windows VistaまでのOSをサポートするというだけではない。同シリーズ最新のヘックス/ターン制システムである「パワードール5」のシステムに載せてグラフィックスやムービーを一新,さらにパイロットのスキル/ステータス部分も「パワードール5」のルールに合わせ,あらためてバランス調整を行った,真の意味でのリファイン版である。
そんな,オールドファンには懐かしくも新しい「パワードール1」は,3月27日に発売される。もちろん,これまで「パワードール」シリーズになじみがなかったという人にも,本格的なSF陸戦ストラテジーとして楽しめるはずだ。なにしろ初代「パワードール」は,「パワードール2」シリーズともまた違った戦術性をいろいろ備えていたのだから。
ここでは,「パワードール1」の完成品をファンのみなさんより一足お先にプレイしたうえで,歴代パワードールファン,そして広くストラテジーゲームファンにとって気になるポイントを中心に,ゲームの概要と魅力をお伝えしよう。


惑星オムニへの植民および,地球政府による締め付けの強化から独立戦争勃発にいたる経緯は,プロローグのムービーで語られる
また,以降の回では「それでもパワードールシリーズはちょっと難しくて……」という人のために,いくつかのシナリオをピックアップしつつ,このゲームの楽しみどころである戦術部分について,いろいろ応用可能なレクチャーをお届けしたいと思っている。これをお読みいただいたうえで,そのほかのシナリオのシチュエーションに合わせた使い方を考えれば,そのとき「パワードール1」は“難しいゲーム”ではなく“歯応えのあるゲーム”に変わっているはず。そうした,新任隊長のみなさんにとってのパスファインダー(部隊の行動における案内役)を務められれば,何より幸いである。


同じく,オープニングムービーにおけるパワーローダーの勇姿
パイロットの能力は,スキル/ステータスの2本立てに

戦闘画面で,パワーローダー各機の右上に示された数字がAP(アクションポイント)

「パワードール」シリーズは戦術級ゲームにふさわしく,行動ポイント制を採用している。これは,1ターンという限られた時間の間にかけられる労力と時間を,数字で表したものだ。「パワードール」シリーズでは移動するにも射撃するにも,何をするにもAP(アクションポイント)を消費し,それを使い切ったらそのターンにはもう行動できない。また,時間と手間のかかる行動ではより多くのAPを消費する。同じ歩くのでも,ただ目的地にまっすぐ向かうのと,絶えず周囲を警戒しながら進むのでは,かかる時間と手間が違って当然だ。同じように,漫然と敵を撃つのと,しっかり狙い定めて撃つのでは,命中率だけでなくAP消費も違ってくる。
これが,「パワードール」シリーズ全作品に独特の緊張感とリアリティを与えている,重要な基本システムである。

それぞれ「パワードール1」(上)と「パワードール for Win 3.1/95」(下)における,ゲームスタート時点のヤオ・フェイルン海軍少佐。原画を生かしたグラフィックスのリファインぶりも一つの見どころだが,ここでは能力パラメータの分類方法の違いに注目してほしい
ちなみに初代「パワードール」の画面は,こんな感じのトップビュー(直上視点)だった

「パワードール」と「パワードール1」の話に戻ろう。リファインされたグラフィックス要素の数々は,原稿に添えた画像で順次ご覧いただくとして,ここでは戦闘に大きく関わってくる,ルールの変更部分を説明したい。そもそも初代「パワードール」において,パイロットの能力は−7〜+7のステータス数値(ゲーム内用語では補正値)で表現されていた。数字は大きければ大きいほど優秀で,例えば対地攻撃補正の値が高いパイロットは,戦車や偵察車両,敵パワーローダーを撃ったときの命中率が高くなるといった具合で,これによって各パイロットの個性と,戦いを通した成長ぶりが表されていたのである。
それに対して「パワードール1」では,「パワードール2」以降で確立された,スキルとステータスの2本立てからなる能力表現に変更された。スキルとステータスでどこが違うかというと,スキルは戦闘を通じて学べるものではなく,各隊員が持っているか持っていないかがすべてとなっていて,成長段階も存在しない。つまり,索敵/通信/工兵/隠蔽の四分野については,明確に専門技術と見なされているのである。
その一方で対地攻撃や対空攻撃,白兵戦や防御といった能力はステータス扱いのまま,従来どおり成長する能力値となっている。

ミッションブリーフィング画面における,ハーディ・ニューランド中佐とヤオ・フェイルン少佐。ヤオ姉さんはこの時点で,副隊長格の役割を務めるようになっている?

ミッションブリーフィングでの作戦説明と,具体的な作戦立案画面。初代「パワードール」のプランA/Bという選択ではなく,「パワードール2」以降と同じく,必要な枠に人員を割り振って,任務や進入方法,行動時間帯を個別に選択する形となっている
この変更によって各隊員の役割分担が,より重要になった。だがそれを,単純に制約が増えて窮屈になったと考えるのは誤りだ。というのも,各隊員が専門技能を効率よく担当することで,部隊全体の行動としては逆に自由度が増しているからだ。そのカギはこの節の冒頭で述べたAP(アクションポイント)にある。
工夫次第でAPに余裕を作れるようになった

搭乗する機体の機動力によって,APにはボーナスが加わる

実のところ,スキルは隊員固有で後から学べない能力というだけではない。特定のスキルを持った隊員と持たない隊員では,その行動に必要なAPの量が異なる。例えば索敵スキルを持った隊員は,持たない隊員が索敵をする場合に比べて半分のAP消費で実行できる。そしてそれは,通信/工兵/隠蔽でも同様だ。
つまり無造作に手の空いている(APがまだ余っている)隊員を指定して,支援砲撃要請や高性能爆薬の設置を命じるよりも,それぞれ通信スキル,工兵スキルを持った隊員に任せたほうが,部隊全体として見たとき,AP消費が抑えられるのである。これら特殊作業に従事しない隊員は,そのぶん余計に射撃や白兵戦闘ができる。
一見,誰もが行うアクションに思える隠蔽(障害物の陰に隠れて,敵から見えないような姿勢をとること)でも,それは同様だ。隠蔽スキルを持った隊員を優先して部隊の先頭近くに出しておけば,敵と接触する可能性の高い位置に留まる場合でも,AP消費を抑えられるし,そのぶんぎりぎりまでAPを攻撃行動に回せる。結果としてこちらの射撃回数が増え,戦闘がより有利に運べるのだ。
火力不足を補うのは,更なる火力か白兵戦か

「パワードール1」における白兵戦。敵がより火力を集中するようになったこの作品では,やや危険の多い戦法かも

さて「パワードール1」の戦闘部分では,あえて初代「パワードール」のテイストを守ったところもある。それは弾薬の貴重さだ。初代「パワードール」では,しっかり狙いを定める「精密射撃」を行わない限り,意外なほど敵に弾が命中しなかった。だからといって「パワードール2」以降と異なり,武器には予備弾倉という概念が存在しなかったため,無駄弾を撃つのはそもそも問題外。なかなか当たらないぶん撃ちまくればよいというわけではなかったのだ。
そうした少ない射撃回数でどう戦っていたかというと,実は白兵戦の活用がキーポイントだった。戦術級ゲームとして考えたとき,銃に予備弾装がないというのは意外に思えるかもしれないが,このあたりのイメージはロボットアニメを念頭に置くと分かりやすいだろう。そもそもSF設定における人型兵器が持つ意義といえば,まるで人のように格闘戦闘ができる点にある……というわけなのだ。
「パワードール2」以降は,火器体系と戦術の幅が広がった点こそが大きな魅力なのだが,それは裏を返すと,射撃一辺倒でも割とどうにかなるようにゲームがデザインされていたということでもある。それに対して初代「パワードール」は,白兵戦用機や煙幕をうまく使っていかないと勝てない。このあたりの配合バランスの妙に,「2」以降とは異なる独自の価値を認めてきたファンも多いのではないだろうか?

「パワードール1」第1シナリオにおける武器の換装画面。最初からさまざまな兵器が使える設定だが,ご覧のように「ポケット」がなく,予備弾倉アイテムも存在しない
さて,今回の「パワードール1」でそこがどうなっているか? 予備弾倉がないままに「パワードール2」的な火器体系になっているというのが正解だ。おかげで各種兵器は精密射撃を行わなくてもきちんと当たるし,グレネードランチャーは戦車にもそこそこ有効で,序盤から誘導ミサイルもばんばん使える。ただし「パワードール2」的になったのは味方ばかりではない。敵軍も視界の広い偵察車両を先頭に,火力を集中して反撃に出てくる傾向があるようだ。
こうなると事態はなかなか複雑である。火器を多数搭載できる汎用型パワーローダーは魅力だが,防御に優れた白兵戦機も,壁役としては捨てがたい……。「パワードール1」では,初代「パワードール」とも「パワードール2」以降とも違った工夫が必要になるのである。
そんなこんなで,「パワードール5」のカッコよく使いやすいルールとユーザーインターフェイスに,初代「パワードール」の魅力を選択的に載せた「パワードール1」は,独特の価値ある1本となっている。初代「パワードール」をプレイしたことのある人には,かつてのプレイを思い出しつつも,だいぶ勝手の違う作戦が楽しめるし,「パワードール2」以降の,より自由度の高い作品をプレイしてきた人には,このシリーズで白兵戦機が果たし得る役割を,より深く味わえるだろう。製品パッケージにはProject EGGによるエミュレーションで動作する初代「パワードール」も収録されているので,これと比べてみるのはどちらのプレイヤーにも興味深いことと思う。
そして「パワードール」シリーズにまだ触れたことのない人には,傑作ストラテジーの名を築いたマスターピースそのものおよび別アレンジバージョンに触れる,絶好のチャンスだ。また,この作品が魅力的に思えたならば,さらに,昨年リリースされた「パワードール2 COMPLETE BOX」を続けて買うとよいだろう。「2」シリーズが1万円未満の投資で全作プレイ可能である。

いずれにせよ,国産PCゲーム界に一大ブランドを築き上げた「パワードール」シリーズの初回作リファイン版「パワードール1」は,その十分な歯応えゆえに買って損のない作品と,あらためておすすめできる戦術級ストラテジーだ。
◆鈴木俊之(Guevarista)
PCゲームとのつきあいは,かれこれ20年以上になるフリーランスライター。PC雑誌およびインターネットメディアでのペンネームはGuevarista(ゲバリスタ。ゲバラ主義者)でおなじみ。それはよいとして,最近日本でも劇場公開されたチェ・ゲバラ二部作のおかげで,ちょっとミーハーに見えるようになってしまったのが,ひそかな悩みらしい。なお正直に述べておくと,初代「パワードール」との出会いは「for Win 3.1/95」から。元来バリバリのヒストリカルゲーマーだという。