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 レス、アンチ系の異能者を殺す方法がある。

 その可能性は、考えたこともなかった。
 数ヶ月前のことだったが、寝込みを襲われた事があった。その馬鹿な襲撃者は自身の放った銃弾に頭を撃ち抜かれて死んだ。過信はしないように気をつけているが、おそらく誰かに危害を加えられ、傷を負うことはもうないだろう。


「……ウォルシュさん? どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」

 シャオリーの声が、遠くで響いた気がした。さん付けとは、自分の立場を忘れたのか?

 いや、それを望んだのは俺か。
 ――望み。
 そういえば、俺の望みとは、なんだったか?

「ウォルシュさん!」

 シャオリーが両肩を掴み、俺の身体を前後に揺らしていた。そんなことに気づくのに、わずかに時間がかかった。その幼い顔が心配に染まるのを見て、もう一度心の中で呟いた。
 冷静になれ。
 感情を鎮めろ。

「……大丈夫だ。なんでもない」
「そうは見えませんでした」
「聞こえなかったか? 俺が大丈夫だと言えば、大丈夫だ。コーヒーをすぐに入れろ」

 シャオリーは、俺の顔をゆっくりと眺めまわし、それからほっと一息をついた。そして豆の用意を始め、コーヒーメーカーのスイッチをいれた。

「どうかなさったんですか?」

 とっさに出たのであろうさっきの言葉とは違い、その言葉はあくまで他人行儀だった。

「忘れろ。そして黙れ。命令だ」
「……かしこまりました」

 シャオリーにこれ以上聞かれるのは我慢ならなかった。なにより心配するような、哀れむような視線が気に障る。
 できあがったコーヒーを飲むとわずかに気分が落ちついたが、根本的な所ではなにも解決していない。ジーンに殺し方を直接尋ねるのはいかにも愚かな考えだ。それなら、どうすればその方法を知ることができるだろうか?

「シャオリー。さっきジーンが、異能者を殺す手段があると言っていたが、お前はなんだと思う? お前ならどうやって殺す?」
「……え?」

 シャオリーが、コーヒーを啜りながら顔を上げた。
 そして、質問の意味が一瞬理解できなかったのか、言葉に詰まった。

「……なんでもない。忘れろ。お前に聞いた俺が馬鹿だった」
「なぜ、そう思うんですか?」
「お前は異能者じゃないし、ジーンのように科学者でもない。おまけにミドルスクールにも行かずにこんなことをしてる」
「確かに……そうですね」

 シャオリーは頷いたものの、すぐに付け加えた。

「私などに尋ねたあなたが愚かでしたね」
「その通りだ」

 挑発のつもりか、それともそれが素なのか、シャオリーは昨日よりはあけすけにものを言うようになった。それを望んだのは自分だったが、やはり腹が立った。