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 彼女が会議室を出て数十秒ほど経ってから、ようやく言葉を口にするだけの気力が戻ってきた。席を立ち、宣言をする。

「俺は部屋に戻る。戻ってくるつもりもない」
「いえ、戻ってきてもらいましょう。君にはそうする義務がある」

 アロイスのその断定口調が、よけいに苛立ちを倍増させる。今はまだ、考えをまとめる時間が必要だ。

「義務なんかない」
「なんなら、多数決で決めましょうか? その場にいなかったことを、後悔しないでくださいね。ウォルシュ・クーパー」

 わざわざ名前を呼ぶところに、殺意さえ覚える。今、この時でなければ殴りかかっていたかもしれない。結果はわかりきっていたが、それでもその衝動は身体を駆けめぐり、つま先や指先をわずかに震わせるほどに制御ができなくなっていた。なんとかその震えを静め、口を開く。

「それで俺が納得すると思うのか?」
「聞いたでしょう? あなたを殺す方法なんていくらでもあるって。その方法の中に、無理矢理に身体の自由を奪う方法があったっておかしくはないと思いませんか?」

 ――もう少しだけ、その話を聞きたいとは思ったが、内からわき上がる感情を抑えきれなくなってきそうだった。と同時に、心の中で念じる。
 怒りを静めろ。
 冷静になれ。

「戻るぞ。こんな場所で飯を食う気はない」
「かしこまりました」

 シャオリーを伴い部屋を出ようとすると、アロイスが背後から一時間後に、と言ったが、二時間後だと吐き捨て、外へと出た。