『Arietta』

「これで、しばらくお別れなのかな」

雪が降ってもおかしくなさそうな、寒い夜だった。
 石畳の地面を、時折立っている街灯が照らしている。
その明かりのすぐ下で立ち止まり、アリエッタはそう言った。
寂しそうな、彼女らしい弱々しい声だった。

二人の間を縫うように、冷たい風が吹く。
僕はマフラーを首に巻き直してから、彼女の言葉を肯定する。

「……そうだね。明日には列車に乗って、行かないとね」
「そっか」


どちらにとっても、それは酷く分かり切ったことだった。
もう、何ヶ月も前からその話を繰り返していたし、初めは二人ともそのことで喜んだりもした。
それが、一日一日経つに連れ、次第に鬱屈した気分に変わり、
今では、その時の名残さえも感じ取れないでいる。

「そっか……明日か」

もう一度アルは呟いて、それから僕の首に手を回した。
その華奢な身体をそっと抱きしめて、彼女の両方の頬に軽くキスをする。
アルはくすぐったそうに小さな声をあげて、それから身体の力を抜いた。
初めてこうしてアルを抱きしめた時のことを、今でも僕は、はっきりと覚えている。

 

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