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柔らかい枕に、顔の半分以上が埋まっていた。
うつ伏せのまま顔を傾け、横のベッドを見つめる。昨日の朝はサイファに先を越されたけど、今朝は俺の方が先に起きた。
誰かの寝顔を見つめながら朝を迎えるなんて、少し色っぽいことを想像してしまいそうだけど、幼さが過度に残るサイファの顔や身体つきのせいか、全くそんな感情は起きなかった。夜、シャワーで身体を洗ってあげたときも、同じようなものだった。
それよりも、誰かが朝になるまでずっと側にいた、という状況に、少し戸惑う。
自分で消した記憶のどこかに、それは存在していたんだろうか?
「……おはよう」
サイファが、ゆっくりと目を開き、こちらの言葉に反応したように微笑んだ。
サイファはよく笑う。
それともただ、俺の真似をしているだけか。
「お腹は空いた? 今日は何食べる?」
昨日の夜から、サイファは何回微笑んだだろう? そこになにか明確な意志を感じとってしまうのは、かなり願望が入っている気がしないでもなかったけど……。
「でも、少なくとも俺の名前くらいは言って欲しいよな」
サイファのベッドの、ちょうど彼女の隣に腰を下ろすと、それを目で追うように視線が移動する。最初は、こちらから話しかけない限り見ようともしなかったのに。
「おい、サイファ。アキラ。ア・キ・ラ。言えるか?」
首をかしげる動作でもすれば、答えが無くてもそれなりに満足行く結果だっただろうが、サイファは特に動きもなく、ただその言葉をじっと聞いているだけだった。
大きな声で何度か名前を繰り返したが、いっこうに答える気配もない。諦めてなにか朝食を頼もうとドアに向かうと、それを待っていたのかサイファも一緒に立ち上がり、そっと俺の後ろを歩いた。
「で、サイファはなに頼む?」
ふとした拍子に答えるんじゃないかとさりげなく話しかけてみたが、相変わらずの無反応に苦笑し、同じ物を二つ頼んだ。
蜂蜜をかけただけのトーストと、コーンポタージュ。サラダでもつければバランスは良さそうだけど、野菜はあまり好きじゃないから遠慮しておいた。
が、サイファの顔を洗っている間に気が変わり、一つだけサラダを追加した。
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