男を帰し、少女が戻ってくるまでの時間をつぶすためにテレビの電源をつけた。
モニターには、なんの変哲もないニュースが流れ続けている。パニックを恐れてのことか、ここで行われている計画は、外には伝えられていないようだった。もっとも、世界を救うだのなんだのと、下らない話をされるよりはよほど良い。
知りたい情報も特になかったから、それだけ確認して、すぐにテレビを消した。
一週間ほど前。どこかの金持ちが、レス、アンチ系の能力者を捜しているという噂がスラムに流れた。俺は自らの能力を――といっても副産物的な能力だったが――有効に使い、それなりに快適な生活を送っていた。そしてそれを隠すつもりもなかった。
すぐにその金持ちとやらの使いの者が表れ、現実的ではない金額を報酬として提示した。
能力を得てからまだ一年ほどだったが、多少危ない橋を渡ることになったとしても、自分の身は自分で守れると信じ切っていた。だからわざわざこんなへんぴな場所まで来たが……。
自分に対する過信を、少しだけ改める必要がありそうだ。自らに向けられる悪意や殺意には対処できるが、分厚いシャッターを突然下ろされたのではどうしようもなかった。
だからといって、この力が役に立たないと卑下する気はない。
ようは使い方だ。それを忘れない限り、誰も俺に危害を加えることは出来ないだろう。それに、今の立場だ。丁重に扱われ、それこそ金にいとめをつけない待遇を受けられる。その立場は、同時に俺の置かれている状況をも示していた。
そして――これからどうするかは決まっていた。
あのロケットに乗るつもりはない。誰かのために死ぬのなんてまっぴらだ。それならいっそ、みんな死ねばいい。
いつもの怒りが――薄い布で覆われたような、自分の核ともいえる内側から、にじみ出るように浮かび上がってくるのを感じた。
誰にともいえない。
何にともいえない。
ただその怒りは、俺が生まれたその瞬間から存在し、一年前に一気に成長した。
|