コーヒーの香りで目が覚める。昨日シャオリーに命じておいたからだが、自分で起きてコーヒーを入れる生活との違いに、ほんの数秒戸惑った。
壁掛けのデジタル時計は、まだ九時を少し回ったところだ。ジーンが勝手に言い残した時間は十時だったが、少しくらいオーバーしてもいい。待つのは嫌だが、待たせることにはなんの罪悪感もない。
「そろそろ起こそうかと思ってたんです。どうぞ」
シャオリーは机の上にカップを置いた。ベッドから起きあがるのは面倒だったから、持ってくるように呼び寄せる。彼女は不機嫌な顔を隠そうとせず、カップをベッドのサイドテーブルの上に置き直した。
結局、昨日は先に寝てしまったせいで初めて見ることになったが、シャオリーは子どもじみたパジャマを着ている。大きめの襟や裾から伸びる細い首と腕が、痛々しく映った。
「内線の使い方はわかるな? トーストとスクランブルエッグとサラダ。お前も好きな物を頼め」
「ええ、そうします」
シャオリーは内線で、同じ物を二つ頼んだ。
命令は聞くが、それ以外は自分の意志か、もしくは反抗的な意見を通す……か。中々良い反応だ。
「着替えないのか? すぐに朝食は届く」
「わかっています。着替えます」
自分のベッドの上から昨日のメイド衣服を抱えると、シャオリーはバスルームへ向かおうとする。
「ここで着替えろ」
「……変わった趣味なんですね」
「卑下するなって、昨日も言っただろ?」
「見たいのならお好きにどうぞ」
怒りに身を任せ、シャオリーは乱暴にパジャマを脱ぐ。昨日腕に触れた時にも思ったが、年の割には骨張った、華奢な身体だった。肌の色はわずかに黄みがかってはいたが、青白くも見えるほど、白かった。ろくに物を食べていないせいか、それとも元々そういう体つきなのかは、今の時点ではわからない。
俺も、ほとんど裸のような恰好で寝る習慣があるから、食事が来るまでに着替える必要がありそうだ。着替え終わったシャオリーを無視して、さっさと立ち上がって着替えを始める。視線を感じたような気がして手を止める。
「……なにかおかしいか?」
目が合い、シャオリーは頬をわずかに赤くして、顔を背けた。昨日の話は、本当だったのか。強がりや嘘でもない、意思表示の一つだったらしい。そう考えると、なんともかわいらしいことだが、それならそれで、昨日の方法はあながち間違っていなかったことになる。
ただ、例えば今日の夜無理矢理に抱いたとしても、それほどの効果は望めそうもない。過去を探り、それを突きつければ、きっとシャオリーは激高し、憎悪を俺に向けるだろう。
「コーヒーをもう一杯だ」
「は……はい」
そう答えた時には、少なくとも顔の赤らみは消えていた。
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