11

 シャワーを浴び、髪をドライヤーで乾かしてやると、サイファは俺が何も言わないうちにベッドに潜り込もうとする。ずっと座っているだけだと、かえって疲れるんだろう。

「おやすみ、サイファ」

 少し考えたいこともあったから、コーヒーを内線で注文し、椅子に腰を下ろした。さっきまでサイファが座っていた椅子の上には、あのぬいぐるみが置いてある。ずっと持っているかと思えば、食事やシャワー、朝に顔を洗ったりするときには意外とすんなりと手放す。子どもっぽいと言えなくもないが、それとも少し違う気がした。
 ふんわりとした毛の、そのウサギのぬいぐるみを手に取ってみる。朝見た時も思ったけど、サイファがいつも持っている耳の辺りが、ほとんど取れかかっているような状態だ。

「うぅ……」

 囁くような、呻くような声が耳元でした――と思った瞬間、手にしたぬいぐるみがふわっと持ち上がった。

「……お前、寝たんじゃなかったのか」

 サイファはぬいぐるみをいつものように掴み、非難めいた視線を俺に向けた。

「ひょっとして、怒ってる?」

 勝手に触ったことに対して?
 驚きもあったが、サイファが初めて俺に感情を向けてくれた気がして、なぜだか少し嬉しい。

「なあ、サイファ?」

 俺の顔をじっと見つめているうちに、サイファはにっこりと微笑み、ぬいぐるみを持ったままベッドへと戻ろうとする。俺が笑顔を浮かべていたからだろうか?

「ちょっと待てって」

 とっさに掴んだのが、ぬいぐるみの足だった。