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「これって、大事な物な――」

 物なのか? と話しかけようとした瞬間、サイファは火がついたように泣き始めた。さっきの非難めいた視線とも違う、純粋な感情だ。
 悲しいとか、嫌だとか。
 ――まるで子どものように、サイファは泣き続けた。

 また元のサイファに戻ってしまう気がして、どうしてもその手が離せない。

「なあ、サイファ、聞けって! これは、お前にとって大事なものなんだろ?」

 泣き声だけが部屋に響いている。これはもうどうしようもない、とあきらめ、手を離そうとしたが……。

 ぬいぐるみの耳がちぎれ、サイファの泣く声は、一層高くなった。

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