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コーヒーメーカーがコポコポと音を立てるにつれ、部屋にコーヒー豆の芳ばしい香りが充満していく。ふとアイに視線を移すと、彼女は真剣な表情で、指の腹を使って何度もぬいぐるみの切れた部分をなぞっていた。
「なにしてるの?」
「切れた部分が、どうなってるかを、まずはよく知らないと」
「……ひょっとして、さっきも聞いたけど、結構大変なこと頼んだ?」
「それは気にしなくていいですよ、アキラ。アイは裁縫も料理も、なんでも好きなんだ」
「ええ」
「そっか」
ありがとうという言葉を、今回は思いとどまった。ここに来てから、すでに何度も言っている。かえって、二人に気を遣わせるような気がした。
「でも、助かったよ……サイファが全然泣きやまなくてさ。明日までに直さないと、また泣くだろうし」
「泣きやまないって、今は?」
アロイスが、何気なくそう尋ねる。
「今は寝てる。泣き疲れて」
「もし今起きたら?」
「これが終わるまでは、戻りたくないな」
「……酷いですね」
「そう思うんなら、見てくる?」
「僕は……やめておきます。子どもは苦手だから」
苦笑しながら立ち上がり、アロイスはコーヒーメーカーのカップに視線を移す。
「あ……」
ちょうどその時、アイが小さな声をあげた。手にしていた針を、下に落としたようだった。手探りで探そうとするアイに、アロイスは駆け寄って一緒に探し始める。
「俺も手伝うよ」
「大丈夫。アキラはコーヒーメーカーの方を見てきてください」
「そっか、わかった」
言われるままに台所へ行くと、丁寧に三つのコーヒーカップが並べられていた。
出来たてのコーヒーを注いで運ぶと、アロイスがなにやら残念そうな顔をして、僕の方を向いた。
「残念ですけど、僕の分ももらってくれますか?」
「ん? どうして?」
「少し用事ができました。サイファの様子を見てきたいんですが、いいですか?」
「サイファの? それは助かるけど……さっき、子どもは嫌いだって言ってなかったか?」
「時と場合に寄りますね。部屋はどこですか?」
アロイスに部屋の番号と簡単な道順を教え、サイファのことを頼むことにした。
そして、アロイスの出て行った部屋で、今度はアイと二人きりで向かい合うことになった。
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