「さっきのさ、ひょっとしてアイが行けって言った?」 アロイスの心変わりに説明をつけるとするなら、そんなとこだろうか。 「いえ、違いますよ」 穏やかにアイは否定する。そして、コーヒーを一口飲み、再びアイはぬいぐるみの切れ端を手に取った。 「サイファのことなんだけど……」 同じようにコーヒーを飲んではみたけど、どうも手持ち無沙汰になり、思い切ってアイに話しかけてみる。 「彼女が、どうかしたんですか?」 手を止め、アイはなぜか言い淀む。 「子どもみたいだし……お腹が空いたとか……」 当たり前の問いと、当たり前の答えを期待していたんだけど……。 「悲しいってさ、立派な感情だよね」 歯切れの悪い答えの理由に、ようやく気づき始めた。アイはつまり、サイファに心があると言うことを認めたくないんだってことが。 「サイファがもし、シャトルに載りたくないって言ったら、アイはどう思う?」 少し、意地の悪い質問だったか。 「……言いませんよ、彼女は。言えません」 怒鳴ったわけじゃない。 代わりに、素直な感想を口にした。 「優しいんだな」 彼女は黙って俯いたまま、手を動かし始めた。
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