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 おろおろとサイファをあやしているのかと思ったけど……。ベッドに座り、泣きじゃくるサイファを抱き寄せ、アロイスはまるで自分の子どもをあやす父親のように、優しくその髪をなでていた。そのくらいで泣きやむくらいなら良かったけど、そうもいかない。時折激しく咳き込んではまた泣くというサイクルは、俺も体験済みだった。

「おい、サイファ!」

 ぬいぐるみを上に掲げてそう叫ぶと、サイファは目を大きく開け、こちらを向いた。サイファが動いたことで、声の聞こえないアロイスも俺が部屋に戻っていたことに気づく。

「……アキラ。遅いですよ」
「あぁう」

 少し枯れてしまった声をあげ、サイファは彼女なりに全速力で走り、俺の手からぬいぐるみを取り返した。

「……すまない、アロイス」

 顔を涙に濡らしたまま、サイファはようやく笑顔を浮かべる。そして、何度か咳をしながらベッドに戻り、すぐに寝息を立て始めた。

「どのくらい泣いてた?」
「部屋に着く前からですね」

 うんざりしながらアロイスは言った。服の肩の辺りが濡れている。

「すまないな」
「……いえ。では、僕はこれで失礼します」
「ああ。本当にありがとう」

 疲れたような顔をしていたが、最後にふっと、アロイスは笑顔を浮かべた。
 その背中に声をかけようと思ったが、無駄になるのは目に見えていた。