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「大丈夫ですか?」

 覗き込むように、シャオリーが顔を近づけた。手に持ったカップを、渡そうかどうしようか迷っているようにも見える。

「大丈夫だ。そこに置いてくれ」

 映像はついに出てこなかった。音と匂いだけがやけに鮮明で、他はもやがかかっている。かすかに浮かんだ情景も、モノクロームの映画のようにかすれていた。
 反射的にベッドサイドに手を伸ばすと、熱い陶磁器のカップにぶつかる。いつもの位置。いつものコーヒーの香り。心が少し落ち着いた。カップを手に取り、一口啜る。

「今日のお前の仕事は、二人の話を聞き、要点をまとめて文書にすることだ」

 二人の馬鹿話を聞くつもりはない。ただし、能力に関しては知っておく必要はありそうだ。その時だけ神経を集中していればいい。

「……文書?」
「エディターはなんでもかまわない。整形もしなくていい。読みやすいように要点だけをまとめて、今日俺が寝るまでにプリントアウトしておけ。必要な機材は内線で頼め。どうせ、お前も自分の日記を書くときに使うだろ」
「でも……その、上手く書けるとは思いません」
「はぁ? 別にあいつらの過去の話を面白おかしく読めるようにしろって言ってるわけじゃない。時間をかけずに理解できるよう、まとめるだけでいい。それに俺は、お願いしてるわけじゃない。命令してるんだ」
「……かしこまりました」

 なにか、戸惑っているのだろうか。それともまだ、俺が直接話を聞けば良いと、幻想を抱いているのか。昨日あれほどの目にあっていて、なおそう思えるのだとしたら、案外心が強いのかもしれない。
 それでこそ、やりがいがある。