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 今日も、くだらない話が始まった。そのほとんどを聞き流し、空想にふけった。
 匂いや音に襲われることは、もうない。しかしその記憶は、ひとたび頭の中で言葉にしてしまうと、曖昧な部分がそぎ落とされる。夢は現実味を失い、言葉という記号の集まりに成り下がる。
 その分、冷静に考えられることもあった。非はこちらになく、怒りは正当だった。怒りを抑える必要など、微塵もない。

 じくり、と傷口が痛む。耳の後ろ、髪で隠されている場所にある銃創は、完全に治っているのに時々そうして存在を主張する。
 痛みも傷も、目の前で繰り広げられているはずの無価値な会話とは無関係だった。にも関わらず、血が流れ出しているように、その傷跡は生暖かかった。

「ウォルシュ様?」

 心配そうに顔を覗き込むシャオリーに、黙れと小声で返し、再びの宛てない思案へと籠もった。