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 痛みは、今は現実のものとなっていた。
 アロイスは迷い無くペンを突き立てたようだった。金属の擦れるような、耳障りな音がまだ耳の奥に残っている。決して悟られるわけにはいかなかったが、かなり不快な思いもした。少し煽りすぎた感もあるが、それも必要な作業の一つだった。
 真実を知るために。

「ジーンと話がしたい。内線を回せ」

 内線表には彼女の名前は載っていない。アキラやアロイスの部屋番号さえあるというのに。

「少々お待ち下さい。今確認をしております」

 ややあって、戸惑ったような声で男は答えた。どうして良いのかの判断が男にはつかないのだろう。アキラやアロイス達は、今までジーンと話をしようとしなかったらしい。
 話を聞くための条件は揃っていた。理由があり、意志がある。
 つまり、我々異能者を殺す方について。

「ジーンよ。なにか用?」

 面倒だ、と言葉に出さずともわかるような口調で、女科学者はそう尋ねた。

「話がしたい。どこかで直接会えるか?」

 シャオリーは、俺達が会議室で話している間に部屋に設置されたPCの前に座り込み、モニターの画面とにらみ合っている。こちらの話が聞こえるとも思わなかったが、俺を殺す方法など、万が一にも教えるわけにはいかない。

「何の話? ここでは話せないの?」
「だから直接会いたい、と言っているんだ」

 ただ面倒くさいだけなのか、それとも俺達とは話すことができない理由があるのか。しばらくジーンは黙り込み、言った。

「用件は? それも言えないのなら、少なくとも一人であなたと会って話をすることは無理ね」

 しばらく考え、小声で答える。

「レス系の異能者を殺す方法について」
「そう、わかったわ。場所は会議室で、今から十分後に」

 内線はすでに切れ、外線電話とは違って今ではなんの音もしなかった。
 予想以上に早い、あっさりとした答えに、少したじろぐ。確かに好都合ではあった。しかし俺が聞こうとしている内容が、彼女にとってなんらかの意味を持つのなら……。
 少し慎重に行くべきかもしれない。

「お出かけですか?」
「用事が出来た、少し出る。時間はどれだけかかるかはわからないが、少なくとも三十分はかかるだろう。それまでにまとめておけ」
「……は、はい」

 シャオリーはモニターの前で顔を伏せ、言いにくそうに口ごもった。

「なにをしてる? さっさとやれ」
「読みにくかったら、申し訳ございません」

 どの程度の文章を要求されているつもりなのかはわからなかったが、結局話はほとんど聞いていなかった。彼女に頼るほかはない。